②銅像について

屋外に設置する大型の銅像の始まりとしては、明治十三年(1880)に高岡の鋳物師によって金沢の兼六園に設置された「日本武尊」(やまとたけるのみこと)の銅像です。この像の大きさは高さ五.五メートルもあり、現在の様な機械や道具の無いその当時の作品として高岡銅器の高度な技術を立証するもので、戦時中の金属供出を免れ今も兼六園の中にそびえ建っています。
この像について最近興味深い研究がなされています。それは、この像にはなぜか鳩や烏が近づかないので鳥の糞で汚れることがないということが知られていました。この事に関して、金沢大学の廣瀬幸雄教授が1988年の解体修理の際に銅像の成分を調べたところ、本来含まれている銅や錫の他に砒素が10%も入っているということが判明したのです。(因みに上野の西郷隆盛像には2%とのことです)なぜ鳥が銅像に含まれている砒素を嫌うのかは分かっていませんが、大変興味深い話だと思いご紹介させていただきます。

ところで、高岡銅器で一番多く作られた銅像は「二宮金次郎像」です。昔はどこの小学校にもあったものですが、戦時中の金属供出で殆どなくなり一部コンクリート製の像が残っています。近年になって、改めて二宮尊徳の教えを実践することの必要性を痛感する人々により改めて小学校や企業に金次郎像を建てることが増えています。因みに、金次郎像が持っている本に書かれている内容は孟子の「大学」より取ったもので、今でも必ず次の通りの内容を彫り込んで作っています。
 
 一國興仁 (一家仁なれば 一国仁に興り)
 一家讓 一國興讓 (一家譲なれば 一国譲に興り)
 一人貪戻 一國作乱 (一人貪戻なれば 一国乱をなす)
 其機如此 (その機 かくのごとし)

高岡で作られた銅像は全国各地の公園や公共施設に数多く設置されています。銅像は銅と錫や鉛の合金である青銅という材料で製作されており大変耐久性がありますので、外に出したままにしておいても数ヶ月程度では全く変化が無いように見えますが、実際には定期的なお手入れが必要なのです。町を走る車ですと、一ヶ月も雨ざらしにしておきますと相当汚れが目立ちますので定期的に洗車をしなければなりません。車と比べ汚れが目立たない銅像も車と同じようにブラシで洗ってワックスを掛けることで良い状態を保つことが出来るのです。

高岡銅器を代表する大型銅像は「高岡大仏」(正式には、銅像阿弥陀如来像)です。明治三十三年の高岡大火の折りに、それまであった木製の大仏が焼失したあと、二度と燃えることのない銅器で作りたいということになり、明治四十年に着工されました。ここで特筆できるのは、製作にあたり原型から鋳造・仕上げまで全てを高岡の職人が手がけたものということです。そしてもう一つ大事な事は、製作する為の費用も全て高岡の町または周辺の市民の寄進によるものということです。奈良や鎌倉の大仏は、当時の権力者がその力で製作をさせていることを思うと、高岡大仏の製作に関わった人々の苦労が偲ばれます。台座を含めた全体の高さ15.85メートル、総重量65トンの高岡大仏は、着工から二十六年後の昭和八年にようやく完成し、日本三大仏の一つといわれています。その後、完成から七十年以上経過し痛みが目立ってきた大仏は、昨年平成の大修理を行いきれいな姿によみがえり、訪れる人々を温かく見守っておられます。

高岡大仏に関わる逸話の一つに、女流歌人与謝野晶子が高岡を訪れた時の話があります。実は、与謝野晶子には明治三十七年に鎌倉を訪れ大仏を拝観した際詠んだ次の歌が残されています。

 「かまくらや みほとけなれど 釈迦牟尼(しゃかむに)は美男におはす夏木立かな 晶子 」

その後、昭和八年に夫・鉄幹と共に高岡を訪れた晶子は、高岡大仏を拝し「高岡大仏は鎌倉の大仏よりも美男におわします」と言ったといわれています。真偽はともかく、実際に鉄幹と晶子は高岡の歌人を訪ねて数回高岡へ来ており、多くの歌を残しています。以下の歌も金屋町の鋳物工場で詠んだもので、金屋町の鋳物公園の入り口に歌碑があります。

「ゐもの師は たのしかるべし みづからを釜ひとつにも 出さんとする 寛 」

「われ入りて 鍋作りする爐にあるを夕日と思ふ ひろきかな屋に  晶子 」

 

(解説は、高岡銅器展示館のホームページの「高岡銅器物語」を参照下さい。)

鉄幹や晶子が訪れた時代の金屋町には、うなぎの寝床といわれる間口の狭い鋳物工場が軒を連ねていましたが、高度成長の折りに多くの工場が機械化されたため手狭となり郊外へ移動し、現在では金屋町には鋳物工場は数えるほどしかありません。

但し、昭和六十年から進められている金屋町通りの無電柱化事業や路面整備事業(石畳通)、金屋町緑地公園整備、高岡市鋳物資料館の開館などにより、古い町並みを残す大変風情のある町となっています。石畳通りには「鐵瓶屋」もありますので、機会がありましたら、是非お立ち寄り頂きたいと思います。

写真
①兼六園の「日本武尊像」 ②「二宮金次郎像」の読んでいる本 ③「高岡大仏」 ④与謝野鉄幹と晶子の「歌碑」 ⑤金屋町の町並み

「金屋町石畳通り 鐵瓶屋」

 富山県高岡市金屋町1-4

 TEL 0766-25-7305

 E-mail tetsubinya@fork.ocn.ne.jp

高岡銅器の展示・販売

「高岡銅器展示館」

 富山県高岡市美幸町2-1-16

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