④製造技法について(2)

平成元年に高岡銅器で初めて重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された作家は彫金の金森映井智(かなもりえいいち)です。

彫金の中でも特に布目象嵌の技法で花瓶に斬新な幾何模様を施し、高い評価を得ていましたが、残念ながら平成十三年に九十三才で亡くなっています。

その後、平成十七年に焼型鋳造の大澤光民(おおざわこうみん)が人間国宝に認定されています。

認定の内容は、鋳型の表面に銅やステンレスの線を埋め込みそこに青銅を流し込み鋳造し、その後仕上げ段階で埋めた金属を研ぎ出して模様を浮かび上がらせる「鋳(い)ぐるみ」という独創的な技法を考案したことで、今までの金工作品には無かった独特の表現の作品を次々とを発表しています。

また、江戸時代から続く蝋形(ろうがた)鋳造を現代に伝えるのは、高岡の須賀一門です。初代・須賀月真叟(すがげっしんそう)松園(しょうえん)は幕末に江戸で生まれ、蝋形鋳造の技術を身につけた後、四十代で請われて高岡へ移住し、その後三十年にわたり花器や香炉・薄端・文房具などを製作しています。特に龍の細工を最も得意とし、現在も残る富山県上市(かみいち)の大岩山(おおいわさん)日石寺(にっしゃくじ)の六本滝の龍頭は松園の傑作の一つと言われています。

初代松園の長男は父の雅号の内、月真(げっしん)を襲名しその後三代にわたって蝋形鋳造を継承しています。

現在の四代月真は、従来の花器や文鎮などに加え細い線を使ったアクセサリーやユニークな花器を制作し、年に一回百貨店で行っている個展で新作を発表しています。三代月真の弟の須賀月芳(すがげつぽう)も高岡銅器の香炉の原型を作っており好評を博しています。

初代の次男は松園(しょうえん)を襲名し父譲りの龍に加え魁(さきがけ)をモチーフとした花器や壁面装飾を数多く作っています。二代松園は昭和四十年には日展審査員になり、この頃から「これからは自分の思ったとおりの作品を作る」と家族に宣言し、今までになかった新しいモチーフの作品「街角シリーズ」を次々と発表しました。昭和四十九年には国指定無形文化財保持者に認定され、代表作品七点が文化庁の買い上げになっています。その後昭和五十四年に亡くなるまで、長男の三代松園、次男の龍(りゅう)治(じ)を初め多くの弟子を養成しましたが、その中から現在、平井昇甫(ひらいしょうほ)、大森孝志(おおもりたかし)、名取川雅司(なとりがわまさし)などが日展や日本新工芸展で活躍しています。三代松園は昭和二十五年に東京芸術大学を卒業後家業に従事すると共に、斬新な造形の作品を次々と発表し昭和四十九年には日展審査員になっています。その後昭和六十一年に国立高岡短期大学の教授に就任し後進の指導に当たっていましたが、平成十八年に八十一才で亡くなっています。三代松園の長男の正紀(まさずみ)も蝋形鋳物の技術を取得し制作活動をしています。


ここで、国指定伝統工芸士について説明をさせていただきます。伝統工芸士とは、国の指定する伝統的工芸品(百年以上続く手作りの技法)の製作に十二年以上従事し、技術・技法に関する実技試験及び知識試験に合格した技術者に与えられる称号です。高岡で茶道具を作る鋳物師の内、般若宗勘(はんにゃそうかん)、金谷清心(かなたにきよし)、神初利三郎(じんぱちりさぶろう)、釜谷寛斉(かまたにかんさい)、金谷由和(かなたによしかず)、藤田勝与(ふじたしょうよ)、鍋谷友賢(なべたにゆうけん)が伝統工芸士に認定されており、この他に麻生雄芳(あそゆうほう)、金谷宗林(かなたにそうりん)、喜多庄兵衛(きたしょうべえ)などが、風炉や瓶掛・花入れなどを作っています。
銅器の町高岡では以上に上げた作家以外にも多くの鋳物師がお茶道具を製作しており、現在では全国の九十%以上のシェアを占めると言われています。たとえば、茶花用の花器を数多く作っている能作一佳(のうさくいっけい)は皆具や建水、蓋置の他に、近年では錫製品も手がけていますし、大野芳光(おおのほうこう)や八尾祥栄(やつおしょうえい)も花器や建水、蓋置を製作しています。
高岡銅器で伝統工芸士に認定されている技術者は、前述した鋳物師以外に仕上げ・彫金・着色など総勢三十五名を数え、鋳造した製品のそれぞれの分野の加工に従事していますが、一般的には鋳造した作家の名前を表に出しています。

一方新しいものづくりの一つとして、今年(平成二十年)にサガミデザイン工房が商工会議所の新分野進出に対する助成金を受けて開発したIH対応型板風炉「ITA」があります。これは従来の箱形風炉より高さが低いため、テーブルの上で使用する時に使い勝手が良く、いつでも気軽にお茶が楽しめるように工夫したアイデア商品です。
ところで、茶釜や鉄瓶に用いた江戸時代の鉄(和銑)はなかなか錆びにくかったのですが、現代の鉄(銑鉄)はどうしても錆びやすくなっています。そこで、近年は古い茶釜や風炉などの修理依頼が数多く来るようになっています。

高岡には釜師や着色専門の技術者がたくさんいますので、鉄や銅製品のどの様な状態の品でも修理をすることが出来ますので、お気軽にご相談下さい。

写真
①金森英井智 金銀象嵌鋳銅香炉 ②大澤光民 鋳銅鋳ぐるみ花器 ③須賀月真 蝋形鋳造蔦文薄端
④須賀松園 蝋形鋳造龍文文鎮 ⑤I H 板風炉
   

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