⑦金属製品のお手入れと修理

前回はブロンズの清掃のことをお話ししましたが、金属製品は室内・屋外に関わらず手入れをする事によってより良い状態を保つことが出来ます。今回は最終回ですので、材質や製品ごとのお手入れ方法をお話しさせていただきます。

まず、お茶席の中心になる「茶釜」です。茶釜は鉄(銑鉄(せんてつ))で出来ています。銑鉄とは、鉄に炭素が含まれていて温度を上げると熔けて液体の様になりますので、鋳造(鋳型に流し込む技法)で製品を作ることが出来ます。鉄は水分があると錆びる性質をもっていますが、江戸時代の炭と砂鉄を原料にした製鉄法で作る鉄(和銑(わずく))は比較的錆びにくいことから、日本ではお湯を沸かす道具として長い間使われてきたのです。ところが、明治に入り西洋の製鉄法(高炉)で大量に製鉄が出来るようになると、できあがった鉄は錆びやすくなりました。

そこで、錆びにくくするために「焼き抜き」という技法で釜の内側に酸化被膜を作る様になりました。これも長い間使用しますとどうしても錆が出るようになりますので、一番気を付けなければならないのは使用後の内側の乾燥です。よくお湯を空けた釜を残り火にかけて乾かすようにするといいますが、実際には釜の中の水分の量や火の強さの関係で充分に乾かないことがあります。

また、釜の底に付けてお湯を沸かした時の松風の音を出すための「鳴り金(なりがね)」「煮え」ともいう)は、釜を鋳造し完成した後に鉄片を漆で付けてあります。釜の底と鳴り金の間にわずかの隙間が出来ていますので、お湯が沸いてくると蒸気がその隙間から出るときに音が出るのですが、釜を使用した後乾かすときにその隙間に水分が残りやすくなりますし、火が強すぎますと漆が劣化してはがれてしまいます。

そこで、お勧めしたいのは内側を乾燥させるためにヘアドライヤーを使うことです。釜の口にドライヤーを乗せて二~三分温風を送りますと水分がとばされてよく乾燥しますし、強すぎることもありませんので是非お試し下さい。
内側に錆が出てしまった釜は、お茶のパックを入れて数時間煮立てますと、赤い錆が黒くなって錆を押さえることが出来ます。この方法はサツマイモの皮の部分を煮ることでも効果を上げることが出来ます。(鉄の質によって効果の違いがありますが。)
百年以上も使った釜は底が薄くなり穴があくことがあります。この場合は底の入れ替えを行います。古い腐食した部分を切り取って、別に新たに作った底を漆で取付けます。

また、古い釜で過去に底の入れ替えをしてあるものがゆるんできて水が漏れることがありますが、この場合は締め直しをすることが出来ます。部分的に穴があいたものは、漆と鉄粉を混ぜた「鉄漆(かなうるし)」を焼き付けて塞ぐ事が出来ますし、内側の錆を取り去って漆を焼き付けて仕上げ直すことも出来ますので、どの様な状態でどの様な手入れが必要かということをご相談下さい。

釜の蓋は通常「唐金(からかね)」青銅=ブロンズ)で出来ています。唐金は大変耐久性がある材料ですが、水分や塩分が残ると緑青(ろくしょう)が出ることがありますので、水気が付いたときや使用後は木綿などの柔らかい布でよく空拭きをすることで良い状態を保つことが出来ます。唐金は古くなると古銅(こどう)といいますが、何十年・何百年の間に何回ともなく人の手で触られることで、とろりとした味が出るものなのです。
使用した後、木箱にしまう場合は、特に充分に乾燥させていただきたいと思います。充分に乾燥していない状態で、長い間木箱に入れたままの場合は、どうしても釜の内・外に錆が出ます。

また、釜を使用した後の唐金蓋には目に見えない汚れや手の汗による塩分がついていることがありますので、時間が経過するとその部分だけが変色しますので、収納する前によく乾拭きをして汚れを取ることをお勧めします。それでも何年も経ちますと、唐金蓋の表面もくすんでくることがありますが、収納時に汚れを取っておきますと、少しワックス(床用でよい)を付けた後空拭きをするだけで、また元のような艶が出てきます。
唐金の風炉や花器や建水なども同じ事です。特に水屋などの湿気のある場所に長く置いてありますと、どんどん緑青が進み肌を荒らしますのでワックスだけでは取れなくなります。この場合は専門の着色技術者にまかせて、一度磨いて色をはがした後改めて着色を行うことになります。
お茶道具で使う金属製品には鉄や唐金の他に南鐐(なんりょう)・毛織(もうる)・砂張(さはり)などと呼ばれるものがあります。南鐐は銀で出来た製品の事をいいます。銀は空気中の硫黄分と反応して黒くなりますが、お茶道具の場合は自然の古びの色合いを大切にしますので、あまり磨かない方が良いと思います。

但し、新しい時に手の油や塩分が付いたままで放置して置きますと、色むらになりますので、使用後は乾拭きを心がけてください。銀で出来た製品が黒くなった場合は、市販の銀磨きで拭くと簡単に光を取り戻しますが、あまり光りすぎても良くない場合がありますので、状況に応じて対応していただきたいと思います。

毛織は銅又は真鍮の板を加工したもので建水や蓋置などを作りますが、お手入れは他の銅器と同じです。銅の湯沸かしや水次も同じですが、内側に錫引きやメッキがしてあり、強くこすると錫がはがれてしまいますのでご注意下さい。砂張は、青銅の一種ですが普通の唐金より錫を多く含んでいる材料です。実は錫は大変柔らかい金属ですが、銅と合金する事によって固くなるという性質を持っており、叩くと良い音がしますので主に喚(かん)鐘(しょう)や銅鑼(どら)などの鳴り物に使用します。
何れにしましても、金属製品は全て大変丈夫でなかなか壊れることはありませんが、お手入れの仕方によって良くも悪くもなりますので、是非日頃のお取り扱いにご注意をいただきたいと思います。

以上で、今回の高岡と銅器のお話しを終わらせて頂きますが、何かご質問がありましたら何なりとお気軽にお問い合わせ下さいますようお待ち申し上げます。

また、高岡へお越しの折りは、以下の私の店へお立ち寄り頂ければ幸いです。

高岡銅器展示館

富山県高岡市美幸町2-1-16

TEL 0766-63-5556

FAX 0766-63-2223

E-mail tenjikan@take.co.jp

 

鐵瓶屋

富山県高岡市金屋町1-4

TEL 0766-25-7305

E-mail tetsubinya@fork.ocn.ne.jp

「金屋町石畳通り 鐵瓶屋」

 富山県高岡市金屋町1-4

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高岡銅器の展示・販売

「高岡銅器展示館」

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